中間値の定理とは,実数上の連続関数が満たす一つの性質を記述したものです.
【中間値の定理】 f:R→Rf:R→R を連続関数とする.このとき,f ( a ) ≦ f ( b ) を満たす任意の閉区間 [ a , b ] ( a ≦ b ) に対して, γ ∈ [ f ( a ) , f ( b ) ] ならば γ = f ( c ) となる c ∈ [ a , b ] が存在する.
この定理は,「連続関数はつながっている」ということを数学的な文章で表現しています.では逆に,任意の閉区間 [ a , b ] で中間値の定理を満たすにもかかわらず実数上連続とはならない関数は存在するでしょうか? 答えはYESです.簡単な例としては次のようなものがあります.
実数上の全ての点で不連続であるにもかかわらず,
任意の閉区間で中間値の定理を満たすような関数は存在するか?
任意の閉区間で中間値の定理を満たすような関数は存在するか?
簡単に言うと R/QR/Q は,有理数分平行移動して一致するような2つの実数は同じものとみなした集合になっています.厳密には次のような集合です.
(選択公理のもとで) R/QR/Q の濃度は RR の濃度と一致しています.すなわち RR と R/QR/Q の間に全単射が存在します.その全単射を F:R/Q→RF:R/Q→R とします.このとき関数 f:R→Rf:R→R を次のように定義します.
【命題】 f は実数上の任意の点で不連続,かつ任意の閉区間で中間値の定理を満たす.
実は f に関してこれよりもっと強い結果を示すことができます.それは次のようなものです.
【命題】 任意の閉区間 I に対して, f(I)=Rf(I)=R となる.
〈証明〉 I = [ a , b ] ( a ≦ b ) を任意の閉区間とします. f(I)=Rf(I)=R を示すためには,f(I)⊂Rf(I)⊂R と R⊂f(I)R⊂f(I) を示す必要がありますが,前者は自明なので,R⊂f(I)R⊂f(I) を示すことになります.
これを示すためには,任意の実数 β∈Rβ∈R に対して
さらにいま, FF は全単射であって逆関数 F−1F−1 が存在し, F(F−1(β))=βF(F−1(β))=β ですから, [α]=F−1(β)[α]=F−1(β) となるような α ∈ I の存在が言えれば証明は達成できます.
では [α]=F−1(β)[α]=F−1(β) となる α∈Iα∈I を具体的に作っていきましょう.
まず γ∈F−1(β)γ∈F−1(β) となるような γ∈Rγ∈R と, 0<q<|I|=|b−a|0<q<|I|=|b−a| を満たす有理数 q∈Qq∈Q を取ってきます.このとき
γ+Zq={γ+nq|n∈Z}γ+Zq={γ+nq|n∈Z}
という集合を考えると, (γ+Zq)∩I≠∅ が成り立ちます.そうでなければ γ+Zq の隣接する2点間の距離は |I|=|b−a| より大きいということになり,すなわち q が |I| より大きいことになって矛盾するからです.
(γ+Zq)∩I の要素の一つを α=γ+mq とします. γ は F−1(β) の要素でしたから, R/Q 内において
これで関数 f は,「どんな小さい区間上」においても実数のすべての値を「無限回」取るということが分かります.すべての点で不連続であることはこのことから明らかであり,また中間値の定理を満たすことも明らかです.何しろどんな小さい区間 [ a , b ] を取ってきても,そしてどんな実数 α∈R に対しても f ( c ) = α となるような c ∈ [ a , b ] が存在してしまうからです.こんなヤベェ関数とは2度と出会わないことを祈っています.
(完)
最後のグラフ黒い
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