無限の指数タワーと数学的カブトムシ

 テトレーションの列 \[ z,\; z^z,\; z^{\s z^{\s z}},\ldots \] の極限を $ z^{\s z^{\s z^{\s \cdots }}} $ と書くことにします.これが $ \infty $ に発散するような $ z $ はどのようなものであろうかと考えてみました.例えば \[ 2^{\s 2^{\s 2^{\s \cdots}}}=\infty \] は当たり前ですが, \[ \sqrt 2^{\s \sqrt 2^{\s \sqrt 2^{\s \cdots}}}=2 \] となります. $ z $ が正の実数 $ a\in\rea_{>0} $ の場合の $ \infty $ への発散領域は初等解析的な方法によって求めることができます.正の実数 $ a $ に対して \[ 1,\; a,\; a^a,\; a^{\s a^{\s a}},\; a^{\s a^{\s a^{\s a}}},\ldots \] という値の列は, $ y=a^x $ と $ y=x $ のグラフを用いて以下のように描かれます.



このとき $ a^{\s a^{\s a^{\s \cdots}}} $ は発散するかどうかのしきい値は, $ y=a^x $ と $ y=x $ のグラフがただ1点で接しているときの $ a $ であると考えることができます.それは次のように計算します.まず $ y=a^x $ の微分 $ y'=a^x\log a $ が1となる点を求めると, \[ a^x\log a=1\\ x=-\log_a(\log a) \] となります. $ y=a^x $ と $ y=x $ はただ1点で接しており,傾きが $ 1 $ となる点 $ (x,y) $ は $ y=x $ のグラフの上にあるはずです.このような点 $ x $ において $ x=y=a^x $ が成り立つので \[ \begin{align} x&=a^x\\ -\log\f a(\log a)&=a^{-\log_{\s a}(\log a)}=(\log a)\inv =\log\f ae\\ \log a&=a^{-\log\f ae}=e\inv \\ a&=e^{\s e^{\s -1}} \end{align} \] というように $ a $ の値を求めることができます.つまり $ a>e^{\s e^{\s -1}} $ となるような正の実数 $ a $ に対して $ a^{\s a^{\s a^{\s \cdots}}} $ は $ \infty $ に発散することになります.


ここで,この $ a $ を複素数を拡張したときに, $ a^{\s a^{\s a^{\s \cdots}}} $ が発散する領域がどうなるのかを考えてみました.しかし計算によって何かしらの $ a $ の条件を求めることができなかったので,プログラムを組んで $ a^{\s a^{\s a^{\s\cdots}}} $ の発散点をプロットしてみました.すると結構エグいカブトムシが現れました.

真ん中あたりにカブトムシ( $ -3\lt x\lt 3,-3\lt y\lt 3 $ の範囲でプロット)
ここでいう「発散」は無限大への発散を表し,震動する点は除外している

 この図は $ z^{\s z^{\s z^{\s\cdots}}} $ が発散するような点を黒くプロットしたものです.想像以上にやばい図が出来上がってしまいました.ちなみに $ z^z $ を計算するときの $ \log $ の偏角は $ -\pi $ から $ \pi $ までとしています.


 この図の一部を拡大するとものすごいグルグルしています.プロット制度を上げれば「無限の回転」になると思われます.この図を持っておけばいつでも黄金の回転を放つことができます.以下に中心部のカブトムシはズームしていきます.

 関数の反復により得られる図は面白いものを秘めていますね.有名なところではマンデルブロ集合があります.他の関数の反復についてもいろいろと気になったのでやってみました.以下の図はすべて範囲 $ -4\lt x\lt 4, -4\lt y\lt 4 $ の範囲で発散点を黒くプロットしたものです.
\[ z^{\s (-z)^{\s z^{\s (-z)^{\s z^{\s (-z)^{\s\cdots }}}}}}\ が発散する点の集合\ \downarrow \]


\[ z^{\s\overline z^{\s z^{\s\overline z^{\s z^{\s\overline z^{\s\cdots}}}}}}\ が発散する点の集合\ \downarrow \]


\[ z^{(\Re z)^{\s z^{\s(\Re z)^{\s z^{\s(\Re z)^{\s\cdots}}}}}}\ が発散する点の集合\ \downarrow \]


\[ z^{(\Im z)^{\s z^{\s(\Im z)^{\s z^{\s(\Im z)^{\s\cdots}}}}}}\ が発散する点の集合\ \downarrow \]


\[ \cdots \cos(\cos(\cos(\cos z))))\cdots \ が発散する点の集合\ \downarrow \]


\[ \cdots \sin(\sin(\sin(\sin z))))\cdots \ が発散する点の集合\ \downarrow \]


\[ \cdots\tan(\cos(\tan(\cos(\tan(\cos z)))))\cdots \ が発散する点の集合\ \downarrow \]


\[ \cdots \cos(\tan(\cos(\tan(\cos(\tan z))))))\cdots \ が発散する点の集合\ \downarrow \]


\[ \cdots z+\sin(z+\sin (z+\sin (z+\sin z))))\cdots \ が発散する点の集合\ \downarrow \]


\[ \cdots z+\cos(z+\cos (z+\cos (z+\cos z))))\cdots\ が発散する点の集合\ \downarrow \]

コメント

  1. 「チルノの数学ノート」からここにたどり着きました。
    他に類を見ない、おもしろい本ですね! 目からウロコでした。ぜひ続刊希望です。

    さて、この「カブトムシ」、以前私も思いついて拙いプログラムを組んだでみたことがあります。
    http://d.hatena.ne.jp/rikunora/20100504/p1
    どうもこれは出来が良くなかったのですが、itaさんという方が美しく描き直してくれました。
    http://d.hatena.ne.jp/ita/20100505/p1
    それが、こんなところで出会えるとは、何とも嬉しくなりました。

    なるほど、・・・sin(sin(sin z)・・・なども複雑な集合を形作るのですね。
    http://d.hatena.ne.jp/rikunora/20170304/p1
    ひょっとして、実数の世界でいわゆるカオスを生み出すような写像は、
    複素数に拡大すると、皆このような、えも言われぬ図になるのでしょうか。

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  2. 素人質問ですみませんが、冪乗の冪乗は結合法則が成り立たないため3の3乗の3乗を27の3乗と考えるか3の27乗と考えるかによって話が変わってくるかと思います。
    漸化式的に書けば
    1. I(n+1) = x^I(n)
    2. I(n+1) = I(n)^x
    とするかによって変わります。
    本記事では自然と1を使っているように見えますが、前置きなしに1を使うのは四則演算の計算順序のようにどこかで決められているものなのでしょうか?
    出典等あれば教えていただけると幸いです。

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